プロゴルファーについて

以前にも似たようなコラムを書いたが、今回は2023年バージョンという事でご理解頂きたい。 日本にいるプロゴルファー達の考え方や動き方に疑問がある。
最近少々、このことに関して思う事があるので勝手に書かせてもらう。

_/_/_/_/トーナメントプロを考えてみる_/_/_/_/

最近は、男子ゴルフトーナメントの凋落が凄すぎる。 以前は、シーズン中は毎週ゴルフ中継があったが、今では月に2回程度しかない。 おまけに地上波で放送も無ければ、BSですら中継が無いときもある。 2部のAMEBAツアーは10試合しかない。

そもそも企業マーケティングとして、ゴルフトーナメントのスポンサードにおける広告効果は測定できない。 企業にとって、付き合いや、シガラミや、ブランディングイメージ向上の為にトーナメントをスポンサードしている事案が多いと思う。 トーナメントの主催に関して、広告効果が確実にあるなら、多くの企業が参入し試合数はむしろ増えるはずである。 男子ツアーで試合数が減っているという事実は、費用対効果が無いのが明白である。

現在の男子トーナメントを見ても、「知ってるプロはいない」「外国人ばかり」「日本で勝つプロも海外では通用しない」 このようなプロ興行が確かに魅力があるとは思えない。 では、どうするべきなのだろうか? 主役であるプロゴルファー達が、自分たちの魅力を広報し、企業を誘致し、 ホスピタリティを持ってスポンサー企業にサービスする事で、トーナメントを開催してもらう。 その努力で自分たちの職場(トーナメント)を確保するしかない。
何故なら、野球やサッカーなどのチームスポーツはチームの魅力を上げればファンも増える。
しかしゴルフの試合は選手(ゴルファー)を見に来る。選手が商品なのだからプロの魅力を上げるしかない。

視聴率も取れずに広告効果が見込まれない、にも拘らず男子ツアーをサポートしている良心的な企業はいくつかある。 その企業にとってプロアマの試合は大事なイベントである。 大事な取引顧客を招待し、トーナメントプロと一緒にラウンドを廻って貰う。スポンサー料はそのコストも含んでいるのである。
ところが、男子プロは、プロアマで同組のアマチュアと満足に口も利かない。技術を聞かれてもロクに答えない。 食事中の会話にも入らない。プロアマラウンド中はゲストを無視して勝手にグリーン廻りで自身の練習を始める。
勿論、トーナメントプロゴルファー全員がこういう事ではない。一生懸命にゲストをもてなすプロもいるのは知っている。

でも、もしプロアマに招待された時に、ゲストの存在を無視して、勝手に自分の練習をして 18ホールのラウンドが魅力的ではなく、お通夜のようなプロアマラウンドに行きたいと思う人がどれだかいるだろうか? はっきり言って数人じゃ意味がない。100%のプロゴルファー全員が、ゲストへのおもてなしをやらないと意味が無い。

LPGA(女子ゴルフ)は衰退期に樋口久子が会長になりこれを徹底した。 プロアマ中は女子プロゴルファーはホステス(聞き役)に徹した。 その効果が徐々に表れ、スポンサーが少しずつ戻り、今ではトーナメントを主催したくてウェイティングするスポンサーも沢山ある程である。 女子ツアーは毎週トーナメントが開催されて、2部ツアーも盛況である。 その結果、多くのジュニアがプロゴルファーに憧れて、若くて可愛い女子プロが増えていき、注目度は更に大きくなってきた。 この繰返しで、プロやトーナメントに多くのスポンサーが付くという相乗効果が出ているのである。

あるプロゴルファーから、ラジオでこんな言葉を聞いたことがある。
「プロゴルファーの仕事は試合で見せる事で、接客する事ではない!」

松山英樹や宮里藍みたいに、試合に出場すればお客を大勢連れてくるスター選手が言うならわかる。
でも勘違いするなと思う。 明らかに、自分で連れてきた客ではないだろ。
トーナメントに出るプロ達はスポンサーの集めた顧客(ギャラリー)のステージで演じる演者(プレーする)なわけだ。 ステージがあって初めて自分が演じる事が出来る。そのステージを作ったのは一体誰だ?
ならば、自分の仕事場を作ってくれ試合を開催したスポンサーに、ギャラリーに、感謝するのが当たり前だ。 これはビジネスなのだ!

90年代は、ゴルフトーナメントが盛んで日本ツアーには青木・尾崎・中嶋というスーパースターがいた。 彼らの魅力が多くの顧客をトーナメント会場に連れてきた。 それでも彼らはプロアマも丁寧に行ったし、ゲスト達を楽しませる事も行っていた。 だから、試合数も増えるし、TV中継も毎試合行われ、視聴率も上がり、プロ個人へスポンサードしたい企業も多数現れた。
プロゴルファーはタレントであり、トーナメントという場所に花を添える演者なのだ。
それを当時のBIGスター達は分かっていた。
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トーナメントプロゴルファーは何をすべきか?

サイン会やファンサービスを丁寧にやれば、スポンサーの気持ちも良い方に変わるかもしれない。 プロアマは重要だ。アマとして参加してくるのは取引先大手企業の重役や社長が多い。 一緒にラウンドしてプロ自身そのものを気に入ってもらえば、自分のスポンサーになってくれるかもしれない。 それらを疎かにしてしまう事で、自分達が損している事にプロ達は気が付いていない。
2022年のJGTOの選手会長が、日本でのJGTOの試合を放棄してLIVゴルフへ出場した。 JGTOのスポンサー企業は、自社の開催トーナメントにこの選手会長の出場を拒否した。 赤字覚悟で数億円も試合開催に出資した企業からすれば、「バカにされた」と思うのは当然だと思う。 広告効果が弱いにも関わらず、巨額な開催費用は一体何の為だったのか?

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・・余談だが・・
(この問題児の選手会長プロはJGTOの副会長にABCマートの創業者をいれてきた。 いま男子ツアー(JGTO)は青木会長と副会長の主権争いで大混乱中だ。
男子ゴルフは組織自体がこんな状態。プロゴルファー達はどうしようもない)
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トーナメントプロゴルファーは個人事業主である。 商品は確かにゴルファーとしてのスキルである。 商品力を上げる事(技術向上)は勿論重要である。 でも思考がここで終わっているプロゴルファーが多すぎるのである。

プロゴルファーの生活の糧は、トーナメントの試合でありスポンサーである。 その取引先相手はすべて企業である。 企業相手である以上、プロゴルファーの対応はビジネスとして接するべきである。

ビジネスである以上、マーケティング力も必要である。 マーケティングとは、相手の事を思い、利用する側を思い、自分を商品として俯瞰して見る事が重要である。 いくら「良い商品である」(優れた実力)と自己主張(自己の権利を主張)しても、相手が必要ないと感じれば買ってはくれない。 世の中は、どんなに良い商品でも、売れない物の方が多く存在する事を知らなければいけない。

技術力をあげれば試合に出られる。 実力さえあれば食べていける。そう勘違いしているプロゴルファーは考えを変えるべきだ。
今は試合が無いのだから・・
試合が無いのに、どこで実力を発揮する? 試合が無いのに、スポンサー企業が選手をサポートする理由はどこにある?

メジャーリーガーの大谷翔平という超人的な実力の持主ですら、MLBという組織を大事にして、スポンサーを大事にして、ファンを大事にする。 大谷翔平というスポーツ商品は、 大谷翔平とマネージメント契約している事務所が 野球の実力だけでなく、マーケティングの側面として企業や社会との関わり方や、その重要性を知り尽くしているからである。

日本のプロゴルファーでタレント事務所に所属している人はいるが、スポーツマネージメント事務所と契約している人はほとんどいないだろう。 スポーツマーケティングを理解している日本のトーナメントプロは非常に少ないと思う。
個人で活動し、「実力があれば、強ければ、なんでも許される」という勘違いプロゴルファーがトーナメントの主役である以上、 日本のゴルフトーナメントビジネス産業の発展はむずかしいと思う。



_/_/_/_/ティーチングプロを考えてみる_/_/_/_/

残念だが2023年には、インドアゴルフスクールの廃業と倒産が一気に加速する。 この問題は根が深く、次回のコラムに書く予定だ。

原因の一つはレッスンプロが増えすぎた事にある。各レッスン団体のライセンスの発行数も増えた。 男子ではトーナメントも減り、トーナメントプロもレッスンというティーチングの職域に活路を求めた。 そして彼らが働く職場を作るべく、インドアのスタジオの新規開店も増えた。

私もゴルフスクールを経営している、コロナ禍を通じてゴルファー人口は数%だけ増えた気がする。 一方でゴルフスクールはここ数年で5倍以上増えた気がする。 しかしゴルフスクールに通う人はゴルフ人口の7%にも満たないのである。
ゴルファーの増加率よりもスクールの増加の方が何倍も増えてしまっては、経営をやっていける訳が無い。
新宿という大都市で15年以上やっている当社でも、 現在のスクール事業はトントンでしかない。他の部分があるので経営できている。

どのスクールも儲かっていないし、ティーチングプロを新規募集をする店舗は圧倒的に少なくなる。 その後、ティーチングプロと呼ばれる人達が、スクールの廃業や閉店で、これから数年で大量に放り出される。 再就職は難しくなるだろう

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今までは、インドアの新規開店ラッシュが起こり、スタッフ確保が急務で、月収30万~40万でティーチングプロを大量に雇い入れた。 ティーチングゴルファー達は、給料の高い方へ当然流れる。またその金額が自分達の正当な報酬の評価と考えはじめる。
他店ではこのくらい貰っている。私も現在の給料より多い。もっと貰えるし稼げるはずだと・・・ しかしこれからティーチングプロの職域環境が悪化するれば今度は一気にダンピングが始まる。 月収20万でも仕事にありつければ良い方なのかもしれない。

最終的に、時代の流れや、人波に合わせて動いていたら、需要と供給のバランスの変化で 自分たちの収入や生活が翻弄されてしまうような、残念な例になってしまう。

しかし、これが日本におけるティーチングプロの現実だと思う。

前文でも書いたが、ゴルフプロは個人事業主である。マーケットや自分の価値は自ら構築しなくてはならない。 ビジネスである以上、そこには商品(優れた技術)だけではダメで、相手の企業の事、顧客の事、自分の存在価値を高める事 や、時代を読み、マーケッターとして俯瞰してみる洞察力も要求されている。 自分の権利や自己主張ばかりするのではなく、 時代に流されない確固たる商品力やマーケティング力を身に付ける事が、生き残れるティーチングプロだと思う。
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私の文章は、現在のプロゴルファー達を否定し、 ダメだしばかり書いているように思われるかもしれない。

しかし少々言葉が強くなるが、プロゴルファー達がマーケティングを理解し、更には自分の未来設計まで出来ている人が非常に少ないように感じている。
私は日本のティーチングゴルファー達の発想力や行動力の弱さを危惧しているのである。

ゴルフスクールでは、通っている生徒達の数は自分のレッスンの結果で、それがティーチングの実力と勘違いしているプロゴルファー達が多すぎるように思う。 ゴルフスクールの生徒達は、店舗の立地や、スタッフの入会クロージングや、広告等で入会してきている。 事実、ティーチングプロが辞めても平均7割がスクールに引き続き残る。 スクールの商品要素としてプロ自身での集客構成内容は30%以下である事実がわかっていない。
生徒が100人いれば、あたかも自分の功績で生徒が100人獲得できているような思い込みのプロゴルファーが多すぎる。 ゴルフビジネスは商品内容だけでなく、トータルマーケティングの結果という理解に乏しすぎる。

それを踏まえて、 ティーチングプロゴルファー達の60歳を超えた自分の未来を創造(想像)している人はどの位いるのだろう? 年配になればプロゴルファーとしての魅力も枯れていき商品力も落ちていく。
60歳を過ぎてもスクールでティーチング出来る戦略はあるのか?今働いているスクールは雇用し続けてくれるのか?
分かりやすく言えば、プロ自身も、スケートでもスキーでも新しく習い事を始める時に、 「60~70歳の先生に習いたいと思うか」どうか想像すればいい。

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私のこの文章も、他人の否定だけで終わってしまっては、卑怯だし全く価値のないコラムになってしまう。 だから書いた以上は、その根拠やきちんと未来へのヒントも併せて追記で書こうと思う。
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アメリカ(カリフォルニア)のゴルフティーチング例を書こう。

https://www.thelab.golf/lessons
上記はWEBは、私の姉が住んでいる街(カリフォルニア)のレッスンフィー。 アメリカでのゴルフティーチングのギャラは州によって違うが、 カリフォルニアでは何と1時間100ドルである。時給13,000円程度という事になる。

彼らの教え方はマンツーマンで、どのプロでも1時間100ドル以上が相場のようだ。非常に儲かっているティーチングプロも大勢いるようだ。 内容までは詳しくは分からないが、レッスンや技術的にはむしろ、日本のティーチングプロの方が教え方やロジックは上手いのかもしれない。

但し、日本での「毎週通うゴルフスクール」の感じとは違うと思う。 スイングチェックしたいときや、必要な時に聞く「アドバイザー」という側面が強いと思う。 会計士や弁護士のような、コンサルタント業務と考える方がいいと思う。

ティーチングプロの商品として大事なことは、技術を教える事だけではない。 ここが「ティーチングスキル」や「理論」「結果」を中心にこだわる、日本のティーチングプロの概念とは違う。

アメリカのティーチングプロは、商品と同様に、「マーケティング」を重要と考え、 その一つの例として日常の社会コミュニティーに上手に入っている。

例えば、アメリカの子供はジュニア時代にスポーツを幾つか挑戦する。 ジュニアのスポーツ経験は将来の進学や進路の内申書に大きく関わるからだ。 アメフトや野球やバスケなどのパワースポーツは、身体の大きな、ネイティブアメリカ人や、黒人系が有利。 身体の小さいアジア系のジュニアの多くは必然的にゴルフやテニスに行くことになる。

ティーチングプロはボランティアで、ジュニアを集めてゴルフレッスンをする。 同伴してくる親御さんに、まず自分の仕事を理解してもらい、見てもらい、ジュニアにも丁寧に接する。 その親御さん達の中には、勿論お金持ちも大勢いる。
親御さんはプロのパーソナリティーを気に入れば、子供だけでなく、自分自身のアドバイスも頼みたいと思う。 弁護士や会計士のように、ゴルフのコンサルタントとして顧客に自分の商品が必要な一部になる。 ましてや、ジュニアは毎年のように入れ替わりで入ってくる。新しい顧客(スポンサー)を捕まえる可能性は無限に続いていく。

お金持ちにとって、相場は関係ない。金額に糸目は付けない。高くてもいいのだ。 何故ならクライアントにとって重要なことは「価格」では無く、「理論」でも「実績」でもない。「その人に頼みたい」から頼むのだ・・・

自分の本来の仕事とは別に、地域に根付き、社会に貢献する。
社会的信用やボランティアの精神が、プロゴルファーとしてではなく、個人としてのアイデンティティーに繋がる。 そして個人のIDが認められた時に、「ティーチングゴルファー」という商品に、信用と信頼から仕事の依頼が来るのである。 人の為になる事。自分を俯瞰し廻りを観る力がある事。社会との協調を保つこと、 それらが最終的に自分に返ってくる。
相手の事を考える事を行い、信用であり信頼を勝ち取る事である。よく考えればビジネスの基本である。

スポーツマーケティングは、商品の優位性を話して「高く販売する」事ではない。 相手に自分の価値を認めさせて「高く買ってもらう」事がマーケティングなのだ。
欧米のスポーツビジネスマーケティングはこれだけで、立派な学問になっている。
スポーツビジネスのマーケティングにおける認識の差が、日本と欧米のスポーツビジネスの年俸の違いになってしまった気がする。
野球でいえばMLBとNPBの野球選手の年俸の差。 ゴルフでいえば、PGAとJGTOの賞金額の差。

日本のプロフェッショナル達は自分の功績や、権利ばかりを主張している。
しかしスポーツビジネスは、あくまでもショー(興行)であり、試合やレッスンはプロ(演者)のステージなのである。
その価値は演者側ではなく、相手(見る側+キャスティング側)が決める事なのだ。
プロフェッショナル達は自ら考え方や動き方を変え、スポンサーも含めてWINーWINを構築する発想や 自分の価値を高める行動に至らない限り、この差は埋まらない。
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最後にもう一度書いておこう。
プロゴルファーは個人事業主である。
個人事業主もビジネスである以上、 自分という商品を俯瞰し、 自分の価値を相手に認めて貰う事が必要である。

スポーツマーケティングは「自分を高く売る」という事ではない。 相手や顧客やスポンサーや関係者に認めてもらい、「自分を高く買ってもらう」という認識と努力が必要だ。
大谷翔平ではない限り、どの業界でもスポーツプレーヤーとしての自分の代わりは何人も存在するのだから・・・



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2023年3月3日付

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